奥安芸の鉄物語〜オソラの星 (工事中)    
奥安芸の鉄物語からみた日本の近代化 修正

事前説明)中世から江戸時代に、中国山地で盛んだった「たたら製鉄」ですが、
奥安芸では、明治時代の初めに姿を消しました。

カナクソは、鉄を作る時に出てくる不純物であり、ゴミのようなもので、
長い間、山の中に、大量に捨てられていました。

川に転げて流されて、小さく丸くなったのがカナメちゃんで、
紙芝居の中では、カナクソ様の孫娘という関係です。

それと、前作の紙芝居の中で、迷子になった中学生の正夫くんですが、
今回は大人になって、新入社員になって、カナクソ様とカナメちゃんに再会します。

中国山地では、明治以降も、「たたら製鉄」に改良を加えて、「鉄」作り続けていました。

それは、多少なりとも、戦争と関わりがあってのことなのです。

 1

NA)さあ始るよ〜 紙芝居だよ〜

【奥安芸の鉄物語〜オソラの星】

始まり〜始まり〜

ちょっと昔のことだけど、広島市を流れる太田川上流の安芸太田町に、
帝国製鉄加計工場がありました。

この物語は、その近くの温井ダムで、
毎年9月に開催されている「しわいマラソン」の会場から始まります。

しわいとは、方言で辛いという意味です。

 2

音)ババババ〜ン

NA)大きな花火が上がり、
全国から集まった700名以上の選手たちが、一斉にスタートしました。

「しわいマラソン」は、安芸太田町全域を回る、全長100kmの長距離コースです。

温井ダムを夜明け前にスタートし、山あり谷ありのアップダウンを走り抜けて、
ゴール直前に、温井ダムの481段の階段を登るという、
とんでもない過酷なマラソン大会です。

 3

NA)正夫くんという、何処で聞いたことのある名前の選手が走っています。

正夫くんは、最初からあきらめている様子で、歩いているようにしか見えません。

それもその筈で、新入社員の研修で、いやいや参加しているのです。

正夫)はあ〜はあ〜 先輩、も〜ダメです。 ぶっ倒れます。 先に行ってください。

 4

正夫)ふう〜〜〜

こんな社員研修なんて聞いたこと無いよ。
まるで、イジメだ。

営業企画部なのに、かっこいいスーツを着たのは入社式の時だけ。
こんな会社は、もう辞めたいよ。

あれ?

このあたりの風景は、何だか懐かしいなあ〜
中学の田舎体験で、迷子になった場所と、良く似てる。

もしかして・・・

 5

カナメ)コロコロコロリン♪ やっほ〜

正夫)やあ! カナメちゃん。 やっぱりなあ〜 会いたかったよ。 元気そうだね。
ところで、カナクソ様はどこにいるの??

カナメ)この先の、恐羅漢という山で待っているわ。
私も先回りして待ってるわね。

正夫)よ〜し、頑張るぞ!

NA)正夫は、起き上がり、再び走り始めました。

はあ〜はあ〜

河原、カナメちゃんの風景

実際の写真でも良いかもしれません。
 6

カナメ)やっほ〜 正夫くん。 ここよ〜

正夫)え〜っ、カナメちゃん。 カナクソ様はそんなに高いところにいるの??

NA)正夫は、マラソンを途中で止めて、恐羅漢に登り始めました。
広島県で一番高い山です。

正夫)カナメちゃん、こんな高い山に登るなんて、「しわい」にも程があるよ。

あれれ? 何だか、目が回ってきたので、寝っころがって一休みしよう。

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正夫)はあ〜 はあ〜 きれいな青空だなあ〜

カナクソ)う〜ん う〜ん う〜ん よく来たなあ〜 正夫。

正夫)わーい。 カナクソ様、お久しぶりです。
相変わらず姿が見えませんが、僕には声が聞こえますよ〜

カナクソ)そうかあ〜

正夫)僕は今年、「鉄の会社」に就職しました。

カナクソ)そうか。 立派になったなあ〜 会いたかったぞ。

 8

カナクソ)正夫、覚えているか。 馬の背中に積んで運んでいた砂鉄のことを・・・

江戸時代に盛んだった、たたら製鉄は、もう、昔の事じゃ。

今では、外国の作り方に取って代わられてしも〜た。

正夫)カナクソ様、北九州の八幡製鉄のことでしょう。

 9

カナクソ)そうじゃ。 良く勉強したなあ〜
大量生産、大量消費、これも時代の流れということじゃ。

実はな、大きな声では言えないが、奥安芸でもな。 イロイロな事件が起こった。

 10

カナクソ)ワシは、暗い土の中から、掘り出されてしも〜てのう。
今では、「オソラ」の上の、そのまた上に隠れておる。

正夫)えっ? どうゆうことなの??

カナクソ)知りたいか?

NA)山の天気は変わり易く、だんだんと暗くなってきました。
正夫が、あたりをキョロキョロした、その時です。

カナメ)正夫くん。 カナメといっしょにタイムスリップしょう。

カナメちゃんの絵を
丸くて可愛いものに統一して欲しい。
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音)ババババ〜ン  正夫)ぎゃ〜雷かあ〜
音)ババババ〜ン

カナクソ)正夫、たまげたか? ダイナマイトの爆発音じゃ!
恐羅漢の原生林を切り倒しておる。 ダイナミックなもんじゃ。

正夫)カナクソ様、どうしてこんなことになっちゃったの?
木は、ノコギリや斧で切り倒すんじゃないの?

カナメちゃんを
丸く可愛くしてください。
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カナクソ)今は、緊急事態じゃ。 第二次世界大戦の真っ最中での。
戦地で、命をかけて戦う兵隊さんも大変じゃが、山の暮らしも大変じゃ。

日本は、石油が少ない島国だから、燃料に困っての、
木を倒しまくって、木炭を作りまくるしかない。

音)ババババ〜ン

本絵を小さく切り抜いたため、
パワポで投影したら、
画素が荒いです。

修正できますか?
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カナクソ)ついに人間は、祈っていた神の棲む山を、壊し始めた。
木炭を作るために、たくさんの人を集めた。

ガタガタの山道を、トラックで運ぶのも大変な仕事じゃぞ。

音)グォ〜〜 ブーブー 危ないぞ。

実際には
広葉樹が伐採されましたので、
できれば木のカタチが、
もう少し丸いほうが良いです。
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カナクソ)このトラックは、木炭車とゆうてのう。

木炭で動くように、エンジンを改造したけど、
坂道では、人が後ろから押さんと動かないという、カッコ悪さじゃ。

正夫)あれ〜 荷台に載っているのは、もしかしてカナクソじゃないの?

カナクソ)そうじゃ。 よく解かったなあ〜

正夫)あれっ? 林の奥から、何か聞こえてきたよ。

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住民)「鉄が無いぞ〜 ガソリンが無いぞ〜 腹減ったぞ〜 皆で拾ってくれ〜」

「エンヤコラ〜 子供も一緒に エンヤコラ〜 学童疎開だ エンヤコラー」

「山奥に捨てられたカナクソまで拾ろーて、ホンマにアメリカに勝てるんかのう?」
「軍は、お国のために、鍋や包丁、寺の鐘まで、差し出せという。」

「おや? 丸いカナクソだ。 こいつも連れてゆこう。」

カナメちゃんを丸く可愛くしてください。

または、

農民がカナクソを掘っている様子。


正夫)カナクソ様、カナメちゃんが連れていかれるよ。 いいの?

カナクソ)行く先は、解っておる。 加計にある帝国製鉄じゃ。

カナメちゃんを丸く可愛くしてください。
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カナクソ)この製鉄所が建設されたのは、
第二次世界大戦が始まる前の、大正時代のことじゃった。 

山の中に捨てられていたカナクソを集め、
西洋の技術を真似して、再び、強い鉄を作ろうとした。

しかしなあ〜

いろいろあって、社長が死んで休業状態・・・

のち、第二次世界大戦が勃発した。

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カナクソ)鉄のモノツクリが盛んな広島は、軍需産業の拠点になっていった。

長らく休んでいた「帝国製鉄」は、急に、降って沸いたような忙しさに、見舞われた。

カナクソの復活じゃ!

カナクソを溶かして、生まれ変わった鉄は、
ゼロ戦のパイロットの命を守る防弾鉄板になったとの噂じゃ。

正夫。 帝国製鉄の中を覗いてみるぞ。

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正夫)わぁ〜〜 大きなレンガ煙突だ。

音)ゴーゴーゴー

カナクソ)正夫、あそこに、二階へ昇る階段があるじゃろう。
上からカナクソと木炭を交互に投入して、下からズク鉄がドロドロと流れ出る仕組みじゃ。

もう、毎回、炉を壊すことはない。

正夫)カナクソさま、横には大きなパイプがあるよ。

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音)ゴトン、ゴトン・・・

カナクソ)大きな水車を回して、その力で、大きなフイゴを押して、
炉にたくさんの風を送り込んでおる。

正夫)昔のたたら場とは、えらい違いだね。

カナクソ)進んだ西洋の技術を導入したということじゃ。
まあ座れ。 正夫とカナメに大事な話がある。

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カナクソ)ワシは考えるんじゃ。

捨てられたカナクソが拾われて、戦争の道具になるのは悲しいことじゃ。

ワシには見えるんじゃ。 近いうちに、この戦争は必ず負ける。

だが、日本は復活するぞ!

たくさんの人が死んで、工場が壊されても、
人の手に残った技術は、必ずや、次の世代に伝わるからじゃ。

しかしな、解からんのが、モノツクリと戦争、モノツクリと平和の関係じゃ。

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カナクソ)ワシは、もう、死ぬのが近い。

これから、激しく燃えたぎる溶鉱炉の中に、特攻する!

そして、真っ赤になってトロケ出て、防弾鉄板に加工されるんじゃ!

そして、ゼロ戦と共に突入する! それが、ワシの運命なんじゃ!

カナメは生き残るがいい。 「モノツクリと平和」 これがワシの遺言じゃ〜

スマンが、あとは頼んだぞ〜
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正夫)カナクソ様、そんなのイヤだよう〜 行かないで〜 わ〜〜

カナクソ)カッコ悪いが、やっぱり死ぬのは怖いぞ〜 おかあちゃん・・・

サラバじゃ! カナメを頼んだぞ! ゆくぞ! うお〜〜〜 熱いぞ〜 熱いぞ〜

 23

音)ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ババババ〜ン  ぎゃ〜  ・・・・・

 24

NA)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その後、しばらくして、広島に原子爆弾が投下され、
カナクソ様の予言どおり、日本は負けてしまいました。

しかし、広島の人たちは頑張りました。

それから10年もすれば、工業製品の出荷は、全国の平均を上回り、
造船、自動車、鋳物、針などの産業が、独自の技術で発展しました。

モノツクリの、チャレンジスピリッツが、戦後の復興の原動力になっていったのです。

   25

NA)正夫は、長い時間、夢の中を彷徨いました。

やがて、自分の職場に戻り、
赤く溶けた鉄の熱風と、騒音と、汗と油の匂いに包まれていました。

気持ちが落ちついてくると、
遠くから、職場の先輩の声が聞こえてきました。

・・・・・・・・・・

先輩)お〜い、正夫。 お〜い、死ぬなあ〜〜〜 大丈夫かあ〜〜〜

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正夫)先輩、ここは何処ですか??

先輩)山の中で倒れていたところを、救護車で運ばれてきたんだぞ。
コースを間違えるとはドジな奴だな〜

NA)元気になった正夫は、
温井ダムの下までトボトボと歩き、大きなコンクリートの壁を見上げました。

それから、481段の階段をゆっくりと歩いて登り、ゴールの様子を見ようとしました。

ところが・・・

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アナウンス)会場の皆さん、いよいよ、制限時間となります。
一旦はリタイアしたけど、再び歩き始めた選手が、最後にゴールします。

ゼッケン119、日新鉄工の正夫選手です。 暖かい拍手でお迎えください!

観客)いいぞ〜 頑張れ〜 もう少しでゴールだ〜 特別賞だ!

音)オメデトウ・・・ パチパチパチ・・・

アナウンス)会場の皆さんにお願いです。
明るいうちに会場のテントをたたむので、皆さんも手伝ってください。

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正夫)カナメちゃん、寂しくなったね。 カナクソ様にもお母さんがいたんだね。

カナメ)正夫くん、カナクソ様は遠くに行っちゃったけど、きっと私達のことを見守っているわ。

正夫)そうだね。

NA)帰り道の途中、満点の夜空に、「オソラの星」が輝いていました。

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NA)その後、職場に戻った正夫は、まるで別人のように、働き始めましたとさ。

あれから、帝国製鉄加計工場は壊され、今は文化ホールとして活用されています。

そして、広島のモノツクリ産業は、今も発展し続けています。

おわり


鉄から作られた【日本刀】は、美しい・・・
鉄から作られた【ゼロ戦】は、かっこいい・・・

ただ、それだけでいいのでしょうか?