三段峡タタラ場絵巻 カナクソ物語 修正
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NA)「三段峡タタラ場絵巻 カナクソ物語」
始まり、始まり・・・

広島はモノツクリの街ですが、
さかのぼること江戸時代、太田川上流では、たくさんの鉄が作られていました。

これから始まる話しは、安芸太田町での田舎体験から、
江戸時代のタタラ製鉄の世界に迷い込んでしまった正夫君の物語です。

話しは、バスの中から始まります。

 2

先生)こら! 正夫君! ゲームを持ってきたらダメって言ったでしょ。

没収します。

正夫)だって・・ 加計は、じいちゃんと、ばあちゃんが住んでるから、
何度も来た事あるんだもん。

先生)だったら、皆に、加計のこと何か教えてよ?

正夫)え〜と そうだなあ〜 そうだ!

神楽のオロチのシッポの中に、隠れているのは何か知っとる?

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先生)えっ?

正夫)もしかして・・ 先生、知らんのんじゃ。

わーい! ピ〜ヒャラ、ピ〜ヒャラ、シュワッチ! カッコエエ剣じゃ。
オロチのシッポの中には「鉄」の剣が隠れとるんで〜

先生)さすが正夫くんは、神楽が大好きなんじゃね。

先生)あっ。 そろそろ古民家に到着しま〜す。 時間がないので後でね。

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先生)集合! 皆ならんで〜

あそこが今晩泊まる古民家です。

正夫)先生、ボロい家じゃね。

先生)も〜 正夫くんったら〜 古民家は楽しいよ。
夜には、お楽しみの肝試しがあるからね。

皆 頑張るんだよ〜

全員)エイエイお〜!

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良枝)私、重たい鉄の包丁使うのは始めて。
正夫)ボクも、鉄の斧で、薪を割ったのは、始めてじゃ。

先生)正夫くん、たっぷり働いた後のご飯は美味しいでしょ?

片付け終わった人から、二人一組で、肝試しのスタートよ。
早く帰ってきた人からお風呂です。

正夫)先生、裏山の神社に行ってから「赤い札」を取ってくりゃあええんじゃろ。
ボク、場所、知とるんで一人で行ってくるわ。

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先生)こらこら、正夫くんたら。 食器も洗わないで、あ〜あ、行っちゃった。
しょうがないわね。

NA)カッコイイところを見せようと、勢いよく山道を進んだ正夫ですが、
実は違う道だったのです。

正夫)あれえ、おかしいなあ。たしか、神社はここらあたりだったけど・・・

ぎゃ〜

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正夫)なっ、なんだよ。なんじゃお前は!
カナメ)私はカナクソから生まれたカナメちゃん。

正夫)カナクソってクソなんか、わあ、きたなあ。

カナメ)バカね。クソといっても人間のウンコとは全然違うの。
ワタシんち、見たかったらついておいで。

神社に赤い札もあるわ。

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NA)カナメちゃんに言われるまま、恐る恐るついていく正夫・・・
だんだんと江戸時代に迷い込んでゆくのでした。

正夫)カナメちゃん。どこまで行くんね。

カナメ)ワタシの家は三段峡のタタラ場なの。
正夫)ぎゃ! タタ・・・タタリか?怖いよう。

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カナメ)ほ〜ら、あれがタタラ場よ。

正夫)えっ!こんな山奥にたくさんの建物があるんじゃ。

カナメ)あの大きな三角屋根が私の家で、あの灯りは鉄が生まれている炎なの。
中を見せてあげるわ。ついておいで。

NA)正夫は、恐る恐る中を覗いてみました。

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正夫)うわ〜 大きな炎があがっとる。
すご〜い、たくさんの人が、元気に働いとる。すご〜い、忙しそうじゃね。

カナメ)そろそろ、怖いカナクソ様を呼ぶわよ。

正夫)もうええよ。 カナメちゃん・・・ 怖いよう。

カナメ)し〜っ!

カナクソ)う〜ん、う〜ん、う〜ん、よくきたな正夫。ワシがカナクソ様じゃ。
理由あって姿は見せられんが、案内したるけえ、外に出ろや。

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正夫)あれ! 肝試しの「赤い札」を見つけたぞ。 やった〜。

カナクソ)待て! 出るんじゃない! お祈りの真っ最中じゃ!
木の神様を怒らすと、大バチがあたるで! 正夫も静かに祈るんじゃ。

NA)パチパチ・・・

正夫)なんで木に祈るのかなあ〜? あっ! あっちでも何かしてるよ。

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NA)ヒヒン・・・

正夫)ぎゃ〜馬じゃ! なんでこんな所に馬がおるんか?

カナクソ)遠くの石見あたりから、いくつもの山を越えて登ってきたんじゃ。
あの背中の荷物の中身は小さな鉄のツブじゃ。

正夫)なんじゃそれ。

カナクソ)砂の鉄と書いて砂鉄じゃ!

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カナクソ)砂鉄は、土の中に、ちいとだけ混ざっておる。
山を崩して、水路に流がすと、池の底にちいとだけ砂鉄が溜まる。

それをチビチビ集めるんじゃ。

正夫)大変な仕事じゃね。

カナクソ)冬の、寒〜い仕事じゃ。正夫、あっちを見てみいの。

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カナクソ)砂鉄を溶かす炉を作り始めたんじゃ。
山から運んだ粘土を、足で踏んで、手でこねて、塊にして、積み重ねるんじゃ。

正夫)何だか四角い風呂みたいじゃね。 あっ、あっちで、遊んでいる人、見〜つけた。

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カナクソ)ばかたれ!何が遊ぶじゃ!
あれはフイゴとゆうてな、炉にたくさんの風を送り込んどるところじゃ。
木の板を踏む人を番子というてな。 これまたつらい仕事じゃ。

NA)ギッコンバッコン、ギッコンバッコン

正夫)シーソーみたいに、カワリバンコに踏むんじゃね。

踏み鞴は中世のものなので、
天秤鞴に変更してください。

加計隅屋鉄山絵巻@
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カナクソ)粘土で作った炉の中に、砂鉄と炭をカワリバンコに入れながら、
これから、3日3晩,も、燃やし続けるのじゃ。

正夫)3日3晩も寝ないで頑張るの?

NA)ゴーーー

カナクソ)ワシはもう寝るぞ。

正夫)えっ カナクソ様は寝てしまうの。ボクはもう帰りたいよ。


カナクソ)最後までみんと、ワシの正体はわからんぞ。

NA)正夫も、燃え続けるタタラの火を眺めながら、ウトウトと眠ってしまいました。

NA)無音  ↑グオ〜〜〜〜〜〜〜

カナメ)正夫くん。 おきておきて! そろそろ、トロケ出るわよ!

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正夫)どしたん、カナメちゃん? 凄〜い!
もしかして、あれから三日もたったんか? 何がトロケ出るんか?

カナクソ)クソじゃ! ウンコじゃ! ワシじゃ! カナクソ様じゃ!
フイゴがフル回転じゃ! 火炙りじゃ! 熱いぞ〜!

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カナクソ)う〜〜ん! 出そうじゃー!  う〜〜ん! 穴をホジクれ〜 

正夫)あっ! 赤いのがトロケ出たあー!

カナクソ)待っとれ! まだまだいっぱいでるぞ〜! 熱いぞ〜!

正夫)ものスゴイ炎だ!  炉が溶けてきたよ!  わあ〜 炉が割れるよ!

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NA)バカバカバ〜ン バカバカバ〜ン

正夫)お〜 割れたぞ!

カナクソ)炎の中に赤い塊があるじゃろ。 あれが【鉄】じゃ。
よ〜く見るんじゃ! マグマじゃ! 命の誕生じゃ!

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正夫)メラメラと生きている。これが【鉄】かあ。

カナクソ)そうじゃ。 回りのゴツゴツがカナクソじゃ。

これから厳しい修行の旅が始まるんじゃ。

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NA)トンチン、カンチン、トンチン、カンチン・・・

カナクソ)叩かれて、鍛えられて、鉄棒になって、月ヶ瀬(加計)から、
太田川を川船で下り、瀬戸内海を渡り、日本中を旅するのじゃ。

そして、農具や鍋や包丁に生まれ変わり、人様のお役にたつ・・・
それが【鉄】の使命なんじゃ。

正夫)カナクソ様、何だか寂しそうじゃね。

カナクソ)正夫、あそこに落ちている石を拾ってみろ。

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正夫)あっ、もしかして・・・

カナクソ)そうじゃ・・・ よく解ったな。 これが、ワシの正体なんじゃ。

カナクソは、【鉄】が生まれるときに出てくる、カスのようなものでな、
炉の穴からトロケ出て、冷えて固まり、捨てられて、地面に隠れておるんじゃ。

カナメは、川に転げて、流されて丸あるくなってしもーた。
ワシの可愛い孫娘なんじゃ。

正夫、別れの前に大事な話がある。

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カナクソ)タタラ場では、大きな炎を上げるために、たくさんの炭を使う。
その炭は、近くの山から順番に木を切って、炭焼き小屋で燃やして作る。

やがて、回りの山は、ワシのようにハゲ山になる。

しかし、タタラ場の人たちは、木を残したんじゃ!
木を植えたんじゃ! 木に祈ったんじゃ!

「タタラ製鉄」とは、人や、馬や、森や、土や、砂鉄が、
皆で協力するからこそできる、とても素晴らしい仕事なんじゃ!

忘れるな! 自分一人ではできんぞ!

もう帰れ! 帰るがいい! あっちに捨てられた鉄の風呂がある。

ハイライト部分で、シナリオが長い割に、
絵があっさりとした印象があります。

木を伐り出して、運んでいるところ
炭の炎などが見えても。

加計隅屋鉄山絵巻A

ハゲ山
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カナクソ)目をつぶり、10を10回数えるのじゃ。 10回じゃぞ。 サラバじゃ!

カナメ)カナメのことも忘れないでね!

正夫)うん ボク、皆が心配してるから帰らないといけない。

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NA)いつの間にか、正夫は田舎体験の古民家に戻り、
ユデタコのようにのぼせていました。

この鉄からできた風呂は、体の芯まで、ポカポカと温まるのです。

大昔の大泥棒だった「石川五右衛門」を釜茹にしたので、
ゴエモン風呂と呼ばれています。

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NA)フーフー・・・ ゴホゴホ・・・

正夫)おじさん、外から薪を燃やしてくれとったんじゃね。
ボク、鉄のこと教えてもらって、五右衛門風呂が大好きになったよ。

NA)田舎体験に参加した皆は、ぐっすりと眠り、
あっという間に2泊3日の時間が過ぎてゆきました。

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先生)集合!そろそろ帰る時間よ。

迷子になった正夫君は、自分から進んで、薪割りをしました。

そして、みんなと協力して、
後片付けも、ちゃんとできました。

どうしてかな〜

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先生)ヒントは何ですか? 正夫君。

正夫)先生。 僕をクイズの問題にするなんて、ズルイよ。

先生)迷子になった正夫君から、イロイロ教えてもらいました。
三段峡にはカナクソ様が隠れとるんと。

今回の田舎体験を、みんな忘れんのよ。

全員)はーい

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NA)
広島は、古くから鉄に由来するモノツクリが盛んで「安芸十り」といわれています。

そこには中国山地の森が、深く深くかかわっていたのです。

私たちの身の回りにある鉄で作られたモノも、実は森とつながっているのです。

おわり。


作画 いくまさ鉄平

この紙芝居は、太田川アクティブアーチの製作したシナリオとキャラクターの原案をもとに、
まち物語製作委員会のいまくさ氏が修正し作画した作品です。