龍姫湖おろち伝説〜愛の呪文  文・絵 いくまさ鉄平 (まち物語制作委員会)
 1

NA)  この紙芝居は、温井ダムの「龍姫湖」の底に沈んだ民話をもとに、
     作り直しました。

     ”炭焼き男甚六”と、”旅人オチヨ”の、悲しくも美しい”愛”の物語です。

     ここは温井の山の中・・・


お千代) 「やっほ〜 甚六ちゃん〜 こっちよ〜」

 2

甚六)  「ふんぎゃ〜〜〜〜」

お千代) 「何をそんなにビックリしてるの?」

甚六)  「バ、バケモノが、 しゃ、 しゃべった!」

お千代) 「失礼ですね。 アタシは見てのとおりの龍ですよ。」
      「甚六ちゃんは、龍を見たことないの?」

甚六)  「神楽のオロチなら、知っとるが、ホンモノは初めてじゃ。」

 3

お千代) 「アタシの名前は、”リューチェル・オチヨ・カネモチーヨ”」
      「日本名”お千代”と申します。」

甚六)  「遠くから来たのか? 沖縄か? イタリアか?」

お千代) 「甚六ちゃんのお嫁さんにピッタリな名前でしょ。」

      「アタシの結婚相手は、”温井の炭焼き男の甚六”だと、
       3000年も前から決まっているの。」

甚六)  「お、お前、龍じゃろ。 龍と人間が一緒になることは出来ん。」

 4

お千代) 「甚六ちゃんは、頭が固いのね。
       これからはジェンダーなので、フレキシブルに対応しないとね。」

甚六)  「はあ?」

お千代) 「まあ、そんなことより結婚しましょ。 そうしましょ。」

甚六)  「ワシは認めんぞ、絶対に認めん。」

お千代) 「だったら、甚六ちゃんに、面白いものを見せてあげるわ。」

NA)   お千代が抱えているズタ袋の中から、黒い石が顔を出しました。

 5

NA)  これは、たたら製鉄の時に出てくるカナクソが、
     山から転げて、川に流されて、コロコロと丸くなったものです。

     ”カナメちゃん”と言われています。

お千代) 「甚六ちゃんが、欲しいのは、お金でしょ。 だったら、リサイクルですよ。」

      「甚六ちゃんの炭焼き窯で、赤くなるまで焼きあげて、呪文を唱えましょ。」

甚六)  「呪文??」

 6

お千代) 愛する甚六ちゃんだけに、教えてあげるわ。
      「タッタラバ〜、タッタラバ〜、タタラバタタラバ♪」

甚六)  「タッタ、タッタ? 何がタッタんか?」

お千代) 「いいから、炭焼き窯に火を熾してちょうだい。」

 7

NA)   甚六は、ぶつぶつ文句を言いながらも、炭焼きの窯に火を熾し、
      カナメちゃんを投げ入れました。

      小さなフイゴで風を吹かせると、どんどん温度が上がってゆきます。

甚六)   ゴー ゴー ゴー

お千代) 「甚六ちゃん。 そろそろ始めるわよ!」

      「タッタラバ〜、タッタラバ〜、タタラバタタラバ♪」

 8

NA)   するとどうしたことでしょう。 真っ赤なカナメちゃんが、ピカピカと輝きはじめ、
       しだいに小判に姿を変えていくではありませんか。

お千代) 「タッタラバ〜♪」

甚六)  「な、な、なんじゃこりゃ〜 丸いカナクソが、小判に生まれ変わったぞ。」
      「えらいこっちゃ。」

 9

お千代) 「これで、お金持ちになりました。 結婚しましょ。 そうしましょ。」

甚六)   「う〜ん・・・」

お千代) 「まだ何か不満ですか?」
      「煮え切らない甚六ちゃんも大好きよ。 言ってごらん。」

甚六)  「ワ、ワ、ワ、ワシは、結構、メンクイかもしれん。」

お千代) 「やっぱり、ルックスね。 かしこまりました。」

NA)   お千代は、また呪文を唱えたかと思うと、
      なんとも可愛い女の子に姿を変えたのです。

   10

NA)   でも、少しヘンでした。

お千代) 「ど〜お! いいでしょう?」

甚六)  「う〜ん、頭からツノが生えてるし・・・ う〜ん、お尻にシッポがあるし・・・」

お千代) 「甚六ちゃん好みに、もう一度手直しするけど、ツノは許してね。」
      「甚六ちゃんのためなら、怒るときもありますよ。 はっ、はっ、は〜」

 11

NA)  やがて、甚六とお千代は、結婚式を挙げました。

     ハネムーンは三段峡と井仁の棚田、
     帰ったらすぐに、家をリニューアルして、セレブな暮らしが始まりました。

     風炎窯の耐熱皿に、見浦牛のステーキ。
      戸河内ウィスキーに、チョコちゃん。
       吉水園の茶道に、温井スプリングスの露天風呂。

     朝寝、朝酒、朝湯の毎日に、なりました。

     貧乏だった甚六の変わりようは、
      毎日のように、村の井戸端でスクープされています。

 12

村女1) 「ねえ、お千代さんのこと。 何かヘンだと思わない?
       今日も甚六は仕事をサボってるし。 妙にお金があるみたいだし。」

村女2) 「あのね。 お千代さん、可愛い顔して”バケモノ”かもしれないわ。
       この前、カネモチーヨ、カネモチーヨと、からかったら、怒ったのなんのって。」

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村女2) 「振り向いたと思ったら、ぐわ〜! と、襲いかかってきてね、
       真っ赤な顔して、両手で、私の首を掴んだのよ。」

      「そしたら、その素手が氷のように冷たかったから、たまげたわ。」

村女1) 「そりゃあ、いびせーわ!」
      「そりゃあ、まるで、夏暑く、冬寒い、加計みたいじゃね。」

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村男1) 「おい、甚六のやつ。 何だかヘンだと思わんか?
       そもそも、あの嫁さんは、どこから来たんじゃ?
       甚六には似合わんベッピンじゃし。」

村男2) 「ワシはの。 
       お千代さんが、真夜中に、一人でうろついとるのを見たで。」

      「誰にも言うなよ。 温井の渕で、着物を脱ぎ始めたんじゃ。」
      「月明かりに照らされて はっきりとシルエットが、写し出されたんじゃ。」

村男1) 「そっ、それで。」

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NA)   nnnnnnnnnnnn (タブー♪)

村人2) 「チョットだけじゃったが、背中には、タトゥーなウロコが輝いていたんじゃ。
       美し過ぎて、怖いくらいじゃった。」

村人1) 「いびせーのう! そりゃあ、山賊のアネゴかもしれんぞ。」

・・・・・・・・・・

甚六)  「おんどりゃあ〜 何の話しじゃ。 お前ら、お千代の裸を見たんか?」

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村人1) 「ぎゃ、 甚六がおった!」

村人2) 「いや、その・・・ すまん。 仕事を思い出した・・ 逃げろ!」

甚六)  「お前ら、つまらん噂、しよったら承知せんどお〜」

NA)  なんとかその場を”蹴散らした”甚六ですが、
     やがて、その噂は村中に広がりました。

     誰もが、お千代の事を”ホンモノのバケモノ”だと思い始めました。

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お千代) 「お〜い。 甚六ちゃん。 アタシはもう、ここには住めないわ〜」
      「温井の渕は狭いです。 ヨソモノには、キツイわ〜」

甚六)  「で、どうするんじゃ?」

お千代) 「甚六ちゃん、ごめんね。 これから、出雲のヤガタガ池に旅立つことにしたの。」

甚六)  「ワ、ワシを置いてゆくのか?」

お千代) 「出雲に行けば人間の姿でいることはできません。 お金もないし・・・」
      「甚六ちゃんが、それでも良いのなら、追いかけてきて欲しいわ。」

      「好きよ。 骨まで愛してるわ。」

 18

NA)  お千代は、悲しみのあまり痩せ細り、温井の渕にジャンプして、
     銀色のウロコを輝かせながら、水の底へ消えてゆきました。

甚六)  「うわあ〜〜〜〜〜〜  (号泣)
       ワ、ワシは、これから、どうやって生きていけばええんじゃ〜」

NA)   ”炭焼き男の甚六”と、お千代こと、”リューチェル・オチヨ・カネモチーヨ”の、
      その後の運命は如何に???

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

      翌日、温井の渕には、オチヨの姿はなく、
      ”大きなヘビの抜け殻”が、ひとつ、落ちていました。

 19

NA)  それから、時は流れ・・・
      温井ダムが完成し、温井の渕は、湖の底に沈んでしまいました。

     現在、その近くには、”小さな神社”があります。

     ”難関突破”、”安産”の、ご利益があるのですが、
      これに、”恋愛成就”を加えましょう♪

     何故なら、温井ダムが完成し、広くなった湖に、二人は戻っていて、
      ”真実の愛”で結ばれているから・・

     ”愛の呪文”は、タッタラバ〜♪


挿入歌) 骨まで愛して 城卓也   恋の奴隷 奥村チヨ 

     お知らせ。

     只今、
     加計インターチェンジから温井ダムの10kmを、トリップエリアゲートに設定しています。

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     コンセプトは”愛の呪文”と”ホンモノ体験”

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