三段峡タタラ場絵巻 カナクソ物語 (前篇)
 1

NA)三段峡タタラ場絵巻カナクソ物語 始まり始まり。

広島はモノツクリの街ですが、
さかのぼること江戸時代、太田川上流では、たくさんの鉄が作られていました。

たたら製鉄と言われるものです。

これから始まる話しは、
安芸太田町での田舎体験に参加した小学生の正夫くんが、
「たたらの森」に迷い込んだ物語です。

話しは、田舎体験に向かう、バスの中から始まります。

出演

NA)

先生)

正夫)

カナメ)


絵 いくまさ鉄平

文・PP 風炎オヤジ
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先生)こらこら! 正夫くん! ゲームを持ってきたらダメって言ったでしょ。

正夫)だって・・ 加計は、何度も来た事あるから、退屈なんだもん。

先生)じゃあ、正夫くんには、先生からクイズを出します。

芸北といえば神楽。
神楽で有名なヤマタオロチのシッポの中に隠れていたモノ、何〜んだ?

正夫)え〜と、う〜んと、え〜と・・・ ???










 3

先生)この前、習ったでしょう。
答えは、「鉄のカタナ」、「あめのむらくものつるぎ」よ〜

正夫)あっ、そうか。 思い出した。
どうせ、神楽は作り話で、ウソに決まっているけどね。(←小さな声)

先生)えっ、何か言った?

正夫)べ、べつに・・・

NA)やがて、みんなを載せたバスは、古民家に到着しました。

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正夫)先生、あれが今晩泊まる家なの。 ボロじゃね。(←大きな声)

先生)も〜 正夫くんったら〜
食事のあとに、お楽しみの肝試しがあるからね。

自分勝手な行動は、ケガしたり、迷子になるからね。

大人の言う事、聞かんといけんよ〜

みんな 頑張るんだよ〜

全員)エイエイお〜!(←大きな声)

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先生)正夫くん、「鉄の釜」で炊いた「ご飯」は美味しいでしょ?

正夫)ボクは、「パン」が好きだな。(←小さな声)

先生)食べ終わったら、食器を洗って、片付け終わった人から、肝試しのスタートよ。
危ないので3人1組で行動します。

正夫)先生、裏山の神社に行ってから「赤い札」を取ってくりゃあええんじゃろ。
ボク、場所、知とるんで一人で行ってくるわ。

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先生)こらこら、正夫くん。 自分勝手はだめよ。 (←大きな声)

あ〜あ、行っちゃった。

NA)カッコイイところを見せようと、勢いよく山道を進んだ正夫ですが、
実は違う道だったのです。

正夫)あれえ? おかしいなあ。 神社はこのへんだっけど・・・

NA)その時、正夫は何かを踏んづけました。

正夫)ぎゃ〜(←びっくり) なっ、なんだ。 なんじゃコレは!

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カナメ)私はカナクソから生まれたカナメちゃん。

正夫)カナクソってウンコなんか? わあ、きたなあ。

カナメ)バカね。クソといっても人間のウンコとは全然違うの。 臭くないし、固いの。

「赤い札」なら、私んちの近くの「タタラ神社」にあるから、ついておいで。

行こ、行こ。

NA)カナメちゃんに言われるまま、恐る恐るついていく正夫・・・
いつの間にか江戸時代に迷い込んでゆくのでした。

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NA)森の中は、しだいに霧に包まれ、遠くに建物が見えてきました。

正夫)カナメちゃん。どこまで行くんね。(←不安そう)

カナメ)「ワタシんち」は、あのタタラ場なの。

あの大きな三角屋根の灯りは、「鉄」が生まれている炎なの。
ついておいで。 中を見せてあげるわ。

NA)正夫は、近づいて、恐る恐る中を覗きました。

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正夫)うわ〜 大きな炎があがっとる。(←大きな声)
火山が噴火しているみたいだ!

たくさんの人が、忙しそうに働いてるね。 何してるの??

カナメ)鉄を作っているの。 うふふ。 正夫君は本当に何も知らないのね。

正夫)それにしても、ここは熱過ぎるよ。

カナメ)じゃあ、ちょっとだけ、外に出ましょう。

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NA)ヒヒン・・・ ブルブル・・・(←巻くちびる)

正夫)ぎゃ〜! なんでこんな所に馬がいるの?

カナメ)遠くの石見あたりから、いくつもの山を越えて登ってきたの。

あの背中の荷物の中身は、鉄の原料の「砂鉄」。 とっても重たいのよ。

正夫)ボク、働いている馬を始めて見たよ。
人も一緒に、リュックで運んでいるんだね。

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カナメ)石見の山のマサ土には、砂のように小さな鉄のツブが、
少しだけ混ざっていてね。

山を崩して、マサ土を水路に流がすと、ため池の底に少しだけ砂鉄が残るの。
それを集めるってわけ。

それが、ここに運ばれて来てるの。

正夫)へぇ〜 そうなんだ。

カナメ)寒〜い、冬の間の仕事。 水は冷たいし、雪は降るし、大変なのよ。

正夫くん、あっちを見て。

水は茶色のはず。
現場の説明ではないので、丸くぼやかしたほうがよい。
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正夫)こっちは、楽しそうだね。 「土粘土」のレゴブロックみたい・・・

カナメ)ここでは、タタラの炉を作っているの。

正夫)さっきの火山のことだね。 あっちから、変な音がするよ。

NA)ギッコンバッコン、ギッコンバッコン

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正夫)シーソーだ。 面白そう。 ぼくもやってみたいな。

カナメ)遊びじゃないの。
これはフイゴといってね、炉にたくさんの風を送り込んでいるの。

カワリバンコに交代しながらだけど、みんな汗びっしょりでしょう。

踏み鞴は中世のものなので、
天秤鞴に変更してください。

加計隅屋鉄山絵巻@
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カナメ)粘土で作った炉の中に、砂鉄と炭をカワリバンコに入れながら、
これから、夜も昼も寝ないで、4日間も燃やし続けるのよ。

正夫)えっ、ず〜っと寝ないで頑張るの?

カナメ)途中で休んだりしたら、炉の温度が下がるから、全然休めないわ。
失敗は許されないわ。


正夫)カナメちゃん、何もかもが、大変過ぎるよ。

僕はもう帰りたいよ。

先生や友達が心配してるし・・・ 外も暗くなってきたし・・・

カナメ)正夫くん、カナクソ様に会ってみたくない??
もう少しで会えるんだけどな。


NA)正夫は、燃え続けるタタラの火を眺めながら、ウトウトと眠ってしまいました。

そういえば、肝試しで探している「赤い札」が、まだ見つかっていません。

そして、カナクソさまの正体とは??

それはお楽しみです。

続く・・・



OP:パワポ解説

三段峡タタラ場絵巻 カナクソ物語 (後編)
 1

NA)三段峡タタラ場絵巻カナクソ物語 パート2 始まり始まり。

広島はモノツクリの街ですが、
さかのぼること江戸時代、太田川上流では、たくさんの鉄が作られていました。

たたら製鉄と言われるものです。

これから始まる話しは、
安芸太田町での田舎体験に参加した小学生の正夫くんが、
「たたらの森」に迷い込んだ物語の「続編」です。

出演

NA)

先生)

正夫)

カナクソ)


絵 いくまさ鉄平

文・PP 風炎オヤジ

NA)正夫くんは、三段峡のタタラ場に迷い込みました。

やがて、燃え続けるタタラの火を眺めながら、ウトウトと眠ってしまったのです。
すると、夢の中で、さらに不思議な夢を見ました。

 3

NA)タタラ神社に、タタラ場の人たちが集まり、
大きな木に向かってお祈りをしています。

そこには「赤い札」が貼ってあり、まるで「木」が神様のようです。

眠ってから、どれくらいの時間がたったのでしょうか??

何か聞こえてきました。


無音  ↑グオ〜〜〜〜〜〜〜

カナクソ)正夫や。 いつまで寝ているんじゃ。

ワシがカナクソ様じゃ。 そろそろ目覚めるんじゃ。

正夫)うっ、う〜ん。 あれっ? 何かが光かってる。
もしかして、これがカナクソ様なの。

 4

カナクソ)そうじゃ! クソじゃ! ウンコじゃ! ワシじゃ!
火あぶりじゃ! フイゴがフル回転じゃ! 熱いぞ〜!

カナクソ)う〜〜ん! 出そうじゃー!  う〜〜ん! もっと、穴をホジクれ〜 

正夫)あっ! 赤いのがトロケ出たあー!

カナクソ)待っとれ! まだまだいっぱいでるぞ〜!

正夫)ものスゴイ炎だ!  炉が溶けてきたよ!  わあ〜 炉が割れるよ!

 5

NA)バカバカバ〜ン バカバカバ〜ン

正夫)わあ〜 わ、割れたぞ!

カナクソ)炎の中に赤い塊があるじゃろ。 あれが【鉄】じゃ。
よ〜く見るんじゃ! マグマじゃ! 命の誕生じゃ!

 6

正夫)メラメラと生きている。 これが【鉄】なの?

カナクソ)そうじゃ。 これから厳しい修行の旅が始まるんじゃ。

 7

NA)トンチン、カンチン、トンチン、カンチン・・・

カナクソ)叩かれて、鍛えられて、鉄棒になって、加計の月ヶ瀬から、
太田川を川舟で下り、瀬戸内海を渡り、日本中を旅するのじゃ。

そして、鍋や包丁に生まれ変わり、人様のお役にたつ・・・
それが【鉄】の使命なんじゃ。(←寂しそう)

正夫)あれぇ? カナクソ様、何だか寂しそうじゃね。

カナクソ)正夫、あそこに落ちている石を拾ってみろ。

 8

正夫)あっ、もしかして・・・

カナクソ)そうじゃ・・・ よく解ったな。 これが、ワシの正体なんじゃ。

【鉄】が生まれるときに出てくる「カス」。 山に捨てられたのが「カナクソ」。

川に転げて、流されて、丸あるくなったのが、可愛い孫娘の「カナメ」なんじゃ。

正夫に、大事な話がある。

 9

カナクソ)タタラ場では、大きな炎を上げるために、たくさんの炭を使う。
その炭は、近くの山から順番に木を切って、炭焼き小屋で燃やして作る。

やがて、回りの山は、ワシのように「ハゲちゃん」になる。

しかし、タタラ場の人たちは、木を残したんじゃ!
木を植えたんじゃ! 木に祈ったんじゃ!

「タタラ製鉄」とは、人や、馬や、森や、砂鉄が、
皆で協力するからこそできる、とても素晴らしい仕事なんじゃ!

忘れるな! 自分一人ではできんぞ!

ハイライト部分で、シナリオが長い割に、
絵があっさりとした印象があります。

木を伐り出して、運んでいるところ
大炭の炎などが見えても。

たたら用の大炭は、野焼き。

加計隅屋鉄山絵巻A

ハゲ山
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カナクソ) あっちに捨てられた鉄の風呂がある。

目をつぶり、10を10回数えるのじゃ。 10回じゃぞ。 

名残惜しいが、サラバじゃ!

正夫)カナクソ様、カナメちゃん、さようなら。

1、2、3、4、、、

NA)いつの間にか、正夫は田舎体験の古民家に戻り、
ユデタコのようにのぼせていました。

 11

NA)この鉄からできた風呂は、体の芯まで、ポカポカと温まるのです。

正夫は「タタラ場」での出来事を、ボ〜ッと思いだしていました。

頭には、タタラ神社の「赤い札」が貼りついています。


NA)フーフー ゴホゴホ・・

正夫)あれ? 窓の外からオジサンの声が聞こえるぞ。 

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正夫)薪を燃やしてくれていたんだね。 ありがとう。

ボク、「たたら製鉄」のこと教えてもらって、五右衛門風呂が大好きになったよ。
皆といっしょに「まき割」をがんばるよ。

先生)そろそろ帰る時間よ。
正夫君は、まだ、まき割してるの〜

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先生)迷子になった正夫くんから、イロイロ教えてもらいました。
三段峡にはカナクソ様が隠れとるんと。

今回の田舎体験を、みんな忘れんのよ。

全員)はーい。

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NA)帰りのバスの途中、加計の吉水園に立寄りました。

先生)みんな。
ここは、江戸時代に広島で一番大きな「鉄の会社」だった「加計隅屋さんの別荘」です。

正夫)先生、ここの裏山には「鉄の神様」がいるんだよ。

先生)正夫くんたら、また、変なこと言うわねぇ?

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NA)
広島は、古くから鉄に由来するモノツクリが盛んで「安芸十り」といわれています。

私たちの身の回りにある【鉄で作られたもの】たちは、
実は、中国山地の「美しい森」と、深く深く、関わっていたのです。


だから「カナメちゃん」の頭には、葉っぱが生えてきたのですね。

実は10年後、
大人になった正夫くんは「カナメちゃん」に、恐羅漢で再会します。

お楽しみに・・



OP:パワポ解説 2枚 安芸十利クイズ